長年電力会社に身を置いた者として、各電力会社の経営能力について感じたことを書いていきたいと思います。
この辺りは、2011年3月の震災以降の株価にもかなり反映されていると思います。
2010年夏頃の株価と、6/19現在の株価の比較もしてみます。
【東京電力】
・2450円 → 475円
・震災後、重い賠償責任が足かせになっています。一方で、原子力の再稼働はいまだ見通すことができず、将来的にも暗いです。これが株価に如実に表れていると思います。
・国内に再生可能エネルギーの会社や、JERAを中部電力と設立し、国内外で火力発電、最近では洋上風力発電にも注力するなど、取り組みとしては先進的なこともやっています。
・ただ、賠償責任があまりに重く、また、原子力再稼働を東京電力の名の下で行うのは基本的には実現しないと思われますので、将来も極めて厳しいと考えます。就職は、お勧めしません。
【中部電力】
・2220円 → 1289円
・株価は下がったといっても、東京電力の事故の影響を間接的に受けた電力会社の中では、もっとも影響が小さいです。
・私は、中部電力は電力会社の中で最も経営能力が高いと考えており、震災後の値上げ対応、東電とのJERAの設立、三菱商事とのENECO買収など、本業の国内電気事業以外に、うまくリスクを取りながら、収益を拡大しています。
・JERAを東電と設立することで、中央のパイプも獲得し、非常にしたたかだと思います。
・海外事業などの新しい収益事業も、一気に加速しており、選択と集中がうまくできています。新聞の切り抜きですが、「中部電力は海外での事業展開を加速する。同社は昨秋策定の「中部電力グループ経営ビジョン2.0」で2021~30年度にグローバル事業で総額4千億円の戦略的投資を打ち出したが、そのほとんどを脱炭素関連へ振り向ける。」と、海外事業にも注力をしており、年間200億円の利益は得る予定とのこと。
・リスクとしては、南海トラフの影響を受ける浜岡原発の立地でしょうか。もしここで大事故が起きたらかなり壊滅的な状況にはなりますが、その可能性は高くはないでしょうし、電力業界を目指すなら、非常にお勧めの会社だと考えます。
【関西電力】
・2100円 → 1289円
・中部電力に次いで、経営能力が高いと感じます。
・震災後は、きちがい民主党政権の下でなかなか電気料金を上げられる状況にありませんでしたが、原子力発電が稼働したらすぐに料金を下げるという条件で、電気料金を2回値上げすることに成功しています。
・蓄電池事業や、海外発電事業も順調のようで、特に再生可能エネルギーは国内外で2040年までに1兆円投資すると発表しています。火力や原子力が主役の電力会社にとって、このような発表をするというのはかなり踏み込んだものであり、また、そうしなければ生き残れないという経営の先見性があるのだと思います。
・今は石油会社も生き残りをかけて同じような動きをしていますので、おそらくこのような動きは今後も加速してくと思われますが、その動きを先どった、賢明な選択だと思います。
・電力会社に就職したいのならば、中部電力に次いで、2番目にお勧めの会社です。
【中国電力】
・1850円 → 835円
・昔から火力発電の比重が大きい会社です。このため、原子力の事故の影響は、比重が大きい関西電力や九州電力に比べて軽微なものでありました。これが、九州電力よりも株価下落率が小さいことの要因の一つでしょう。
・中国電力も、海外事業に注力しており、着実に収益を向上させています。
・ただ、原子力比率が低いというのが吉と出るか凶と出るかはわかりません。本格的に原子力が使えるようになれば、関西や九州のような比率が高い会社は電気料金を大きく下げることができますし、一方、また大震災が起きれば、比率が低い中国電力のような会社はかなり優位になります。
・電力業界を志望するなら、相対的に良い会社だと思います。
【九州電力】
・2000円 → 835円。
・関西電力と同じく、原子力比率の高い会社ですが、震災後株価は関西電力よりも大きく落ち込んでおり、収益性の低さが課題かと思います。
・九州電力は、ほかの電力会社と異なり、震災後に電気料金を1回しか上げることができず、しかも関西電力のように「原子力が稼働したらすぐに下げる」とせず、稼働予定日は●月なので●月になったら下げる、というような申請をし、結果、稼働は大きく延期し、収益は大きく棄損されたと聞きます。
・電力会社にとって、電気料金の適正な率での値上げというのは死活問題ですが、明らかに失敗しており、それが改善されるどころか放置されています。つまり、収益率は他の電力よりも低いままです。個人的に、今の株価は高すぎですし、もっと下がっても不思議ではありません。
・また、中部電力や関西電力は、再生可能エネルギーや海外発電ビジネスなどの成長事業の部門を大きくし、人事や総務・広報などのスタッフ部門を大きくならないように「室」や「部」扱いなどにしていますが、九州電力は逆であり、人事労務などのスタッフ部門で一つの「本部」を作っているなど他社に比べてコスト意識がかなり低いと思われます。一方で、再生可能エネルギーや海外事業などの成長事業は、組織上、本部よりもかなり小さく位置付けているようなので、今後もあまり期待できないと思われます。
【沖縄電力】
・1350円 → 1247円
・原子力を保有していないことから、原子力事故の影響を全く受けずに存在できているので、株価の変動もほとんどありません。
・基本的には、沖縄という地理的特性で守られているだけであり、経営が優れているためこの結果になっているというわけではないでしょう。
・全電力合同会議で、沖縄電力の方と仕事をすることもありましたが、正直、ずば抜けてレベルが低い社員数人でした。もしかして個人の問題なのかもしれませんが、非常におっとりしており、知識レベルが低く、会議に貢献しようという熱意もなく、本州の電力会社とはかなりレベルの差を感じました。
・火力発電の比率が異常に高く、今後の燃料高や環境配慮を考えると、ほかの会社が洋上風力発電などで攻め込んだ時に、新規事業も持っていない中、どれほど耐えられるのかというところでしょう。おそらく攻め込まれたらひとたまりもないと思います。ということで、どうしても沖縄!といういう人以外には、就職はあまりお勧めしません。
以上、私の一押しは中部電力で、次に関西電力、といったところです。